一方、梁石日はこれらの話題を1980年代の前半に抉(えぐ)るように扱っていた。本書(梁石日 『アジア的身体』1990 青峰社・1999 平凡社ライブラリー)はそのころの論文やエッセイを集めた一冊になっている。  それは思い返せば、日本が最も醜かった時期であった。 バブリーであること、土建屋的国づくりの体質が露呈していたことは、どこの国にもおこることであるから目くじらを立てることはない。 それよりも「経済大国」を自称したうえで、「生活大国」と言い出していた。 本書の岡庭との対談のなかで梁石日も疑問を呈しているように、グルメブームという得体の知れない大ブームがおこってきた時期でもある。 そのころスーザン・ソンタグを東京案内したことがあるが、彼女は世界でこんなにアグリーな都市はないと呆れていたものだ。