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[読書中]★三島由紀夫『花ざかりの森・憂国』(新潮文庫、S43.09)2014.03.04-
2019.04.14日(2018.10.22月)(つづき15、2014.03.04-)三島由紀夫著S43.09。
(P039)
幾年(いくとせ)か後、彼女に海へのあこがれが沸(たぎ)ってきた。
それは、彼女というよりも、「生き物」の一種である。
彼女の家は公家であった。
彼女は幼いころ、勤皇派の兄に聞いた。
「海はどこまで行けばあるの?遠いの?」
兄は答えて言う、「海なんてどこまで行ってもないのだ。わかるまいが」
少女になり、彼女の家が東京へ移るとき、旅の中、海の辺(ほとり)を通った。
名残り惜しそうに声を上げ鳴く海鳥の悲しみを聞いた。
彼女はしみじみと眺めた。